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札幌地方裁判所 平成11年(ワ)591号 判決

原告

森博政

右訴訟代理人弁護士

田中健二

難波徹基

被告

株式会社松井ビル

右代表者代表取締役

松井雄吉

被告

株式会社松井ビルサービス

右代表者代表取締役

松井雄吉

被告ら訴訟代理人弁護士

諏訪裕滋

青木豪

青野渉

主文

一  被告らは、原告に対し、連帯して、一〇五万円及びこれに対する平成一一年三月一八日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告の被告らに対するその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用はこれを一二分し、その一一を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。

四  この判決は、第一項について、仮に執行することができる。

事実

一  原告の請求

被告らは、原告に対し、連帯して、一二九六万四七六三円及びこれに対する平成一一年三月一八日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告の請求原因

1  事故の発生

原告は、次の事故(以下「本件事故」という)にあった。

(一)  発生日時 平成一〇年二月一九日午後五時三〇分ころ

(二)発生場所 札幌市北区新琴似七条〈番地略〉所在のオークビレッジ・ワオと呼ばれる第二種大規模小売店舗の建物(以下「本件建物」という)の階段(以下「本件階段」という)

(三)  事故の態様

原告は、本件階段を下りようとして、右手で手すりをつかみ、左足を一段目の階段に置いたところ、本件階段上の氷に足を取られてバランスを壊して転倒し、腰、左肩及び左手全体を階段に打ち付け、そのままの状態で本件階段下まで転げ落ちた。

(四)  事故の結果

(1) 入・通院

原告は、腰部挫傷、頚椎捻挫及び左肩打撲の傷害を負って、次のとおり、入・通院した。

① 平成一〇年二月二〇日から同年三月四日まで、札幌西整形外科(以下「札幌西整形」という)に通院した(通院実日数一一日間)。

② 平成一〇年三月三日、通院し、同月五日から同年七月一日まで、手稲前田整形外科病院(以下「手稲前田整形」という)に入院した(入院日数一一九日間)。

③ 平成一〇年七月二日から同年一一月六日まで、手稲前田整形に通院した(通院実日数一二八日間)。

(2) 後遺障害

原告は、後遺障害等級一二級一二号に該当する前屈後屈の制限、左手拇指側の知覚障害、第四、五腰椎圧痛、左第一踵背側知覚低下の後遺障害を負った。

2  被告らの責任原因

(一)  工作物責任

(1) 本件建物及びこれと一体になる本件階段は、被告株式会社松井ビル(以下「被告松井ビル」という)が所有する土地の工作物である。

(2) 本件建物は、多数の客が集まることを予定している。特に、本件階段は、本件建物のうち、一階の部分と二階の店舗及び二階から階段で通じる屋上駐車場とを結ぶ主要な階段である。一段の奥行が約三〇センチメートルあり、傾斜は決して緩やかでなく、十六段ある一直線の階段であり、途中に踊り場はない。横幅は広いが、手すりは両端にあるのみである。

北海道は、冬の期間が長く、積雪・凍結が生じやすい。階段は、平らな通路に比較して、積雪・凍結により通行者が足を滑らせ転倒し滑落する可能性が高い。とくに、本件階段は、その用途及び通行量からして、利用者が転倒滑落する可能性が高い。

(3) 本件階段は、右のとおり、積雪・凍結により人の身体・生命に損害を与える危険性が高いので、その防止のために、積雪・凍結を防ぐ措置ないし設備をとる必要があったにもかかわらず、本件階段には、屋上駐車場と二階をつなぐ階段にあるような積雪を防ぐ屋根や壁はなく、積もった雪を溶かす設備もないなど本来備えるべき安全性を欠く瑕疵があった。

(4) したがって、被告松井ビルは、民法七一七条の規定に基づき、本件階段の瑕疵により原告に生じた損害を賠償する責任がある。

(二)  一般不法行為責任

(1) 本件建物の所有者である被告松井ビルは、本件階段に危険性があり、その用途及びを設置場所に照らし、その危険性を予見することができたから、積雪・着氷を防ぐなり、これを除去するなりして本件階段の安全性を確保するように適切に管理する注意義務があったにもかかわらず、これを怠った過失がある。

(2) 本件建物の管理を委託されていた被告株式会社松井ビルサービス(以下「被告松井ビルサービス」という)は、前記(1)と同様の注意義務があったにもかかわらず、これを怠った過失がある。

(3) したがって、被告らは、民法七〇九条の規定に基づき、右過失により生じた原告の損害を賠償する責任がある。

3  損害

原告は、本件事故により、次の損害を被った。

(一)  治療費

二〇二万四二五三円

(二)  入院雑費

一五万四七〇〇円

一日当たり 一三〇〇円

入院期間 一一九日間

(三)  通院交通費

四万九三〇〇円

往復交通費 五八〇円

実通院日数 八五日間

(四)  入・通院慰謝料

二〇〇万円

(五)  後遺障害慰謝料

二二四万円

(六)  休業損害

二六三万四〇〇〇円

賃金センサスによる五一歳平均給与額 月額五二万六八〇〇円

原告は、本件事故の当時、無職であった。しかし、平成八年まで、スーパーの経営等飲食関係の会社を経営していた。本件事故当時も、新たな事業の準備中であった。

休業期間 平成一〇年二月一九日から同年八月三一日まで

(七)  逸失利益

三八六万二五一〇円

収入額 月額五二万六八〇〇円

労働能力喪失率 一四パーセント

稼働可能年数 一二年

中間利息控除

ホフマン係数4.3643

(八)  合計一二九六万四七六三円

4  よって、原告は、被告らに対し、連帯して、損害賠償金一二九六万四七六三円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成一一年三月一八日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  原告の請求原因に対する被告らの答弁

1  請求原因1の事実は不知。

2  同2は争う。

ただし、(一)(1)の事実、本件階段に屋根がない事実、及び、被告松井ビルサービスが本件建物の管理を委託されている事実は、認める。

3  同3は争う。

本件事故の傷害の程度からして、原告主張の入・通院は本件事故と因果関係がない。相当な治療期間は、せいぜい二週間程度である。原告の後遺障害の程度(首の前屈六〇度、後屈四〇度というのは正常範囲である。知覚障害や腰痛は原告の愁訴に基づくものであり、医学的所見はない)や現実の収入が明らかではない。

4  被告の主張

(一)  北海道では、冬期間、多量の降雪があり、道路や階段などに雪が積もり、これが凍結して氷ができることは、ごく当たり前の自然現象である。歩道などで歩行者が転倒することは日常的な出来事である。しかし、歩道などには、ロードヒーティングや手すりはない。冬期間の歩行に注意を払うのは、雪国の人間として当然のことであり、雪や氷のために転倒するのは、自己責任の問題である。

(二)  階段に、融雪装置や屋根や壁を取り付ける義務は、法律上も要求されていないし、階段一般に要求されて備え付けられている設備でもない。そのような設備がないことをもって瑕疵とは言えない。

(三)  本件階段は、ロードヒーティング装置を備え付け、左右に手すりを設置している。ロードヒーティングで完全に溶けきらず着氷する事態に備え、念のため、砂を撒くなど滑り止め装置を用意している。

(四)  本件事故の前もその後も、原告以外に本件階段で人が滑った、との報告も苦情もない。

(五)  したがって、本件階段に安全性が欠けるところはない。

(六)  仮に、ロードヒーティングの設置温度が低かったことをもって不法行為である、と主張するのであれば、被告らは、専門業者であるジーテックスにロードヒーティングの管理を委託しているから、被告らには、それ以上にとるべき手段はなく、過失がない。

(七)  仮に、被告らに責任があるとしても、原告は、積雪を認識して転んだものであるから、原告自身に本件事故の発生について重大な過失がある。原告の過失割合の方が圧倒的に大きい。

理由

一  事実関係

当事者間に争いがない事実に、本件証拠(甲一ないし一五、乙一ないし六(枝番を含む)、証人高田卓也、原告本人)及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実を認めることができる。

1  原告について

原告(昭和二二年一〇月一五日生)は、親和産業株式会社を経営し、青果物の卸売業を営んでいた。平成八年ころ、会社が倒産した。本件事故の当時は、無職で収入がなかった。

2  被告ら及び本件建物等について

(一)  被告松井ビルは、本件建物を所有し、これを商業施設として賃貸している。

(二)  被告松井ビルサービスは、本件建物の管理をしている。被告松井ビルサービスは、被告松井ビルが所有する多数の不動産の管理業務を担当する被告松井ビルのいわゆる子会社である。

(三)  本件建物は、平成五年二月ころに新築された鉄骨造亜鉛メッキ鋼板葺二階建(床面積一階862.40平方メートル、二階736.43平方メートル)の建物である(別紙(一)及び(二)参照)。

一階には車用品を販売する「ハローズ」等が入居し、二階にレストラン「びっくりドンキー」やカラオケ店舗が入居している。そのほか、一階部分にスーパー等が入り、二階部分が屋上駐車場になっている建物や、「モスバーガー」が入居する建物等が隣接し、全体として、オークビレッジ・ワオと呼ばれる第二種大規模小売店舗の施設を構成している。

(四)  本件建物には、一階から二階に通じる本件階段が付いている。本件階段は、屋外に設置されたもので、高さ約一六センチメートル、幅約三〇センチメートルの横幅の広い一六段の階段からなる。階段の傾斜自体は緩やかである。両側には手すりがついている(別紙(三)参照)。本件建物の二階からは、隣の建物の屋上駐車場に通じる通路がある。

本件階段は、本件建物の二階に用がある者と隣の屋上駐車場に行き来する者が利用することになる。

(五)  本件建物を含む施設には、ロードヒーティングの設置されている。ロードヒーティングが設置されている範囲は、別紙(一)及び(二)の図面の着色部分である。本件階段にも、ロードヒーティングが設置されている。

ロードヒーティングの温度設定を含めた管理は、ジーテックスに委託されている。ジーテックスでは、毎日二回程度、係員が本件建物を含めた施設を訪れ、ロードヒーティングの温度設定等の調整を行っていた。

3  本件事故の発生について

平成一〇年二月一九日午後四時三〇分ころ、原告は、オークビレッジ・ワオを訪ねた。本件建物の二階のレストランで夕食をとるため、氷で滑る本件階段を上った。午後五時三〇分ころ、食事を終えて帰宅するために、本件階段の右端の手すりを持って下りようとした。階段に付着した氷に足を滑らせ、転んで、肩や腰付近を打った。しかし、特に病院に行って、診察を受けることはしなかった。そのまま、自宅に帰り、安静にした。

なお、原告が転倒後、カラオケ店の店員らしい者が本件階段に砂をまいた。また、翌日、ジーテックスの従業員から原告に電話があり、ロードヒーティングの温度調整が不十分であった旨の謝罪があった。

4  原告のその後の入・通院状況について

(一)  原告は、本件事故の翌日である平成一〇年二月二〇日、腰、左肩、左肘、左手関節の痛み、左上下肢痛・しびれ、左肩の挙上困難を訴えて、札幌西整形に通院した。腰部打撲症、左手打撲症、左肘打撲症、左手関節打撲症、腰椎捻挫で約二週間の通院・安静加療を要するとの診断を受けた。

(二)  その後、原告は、平成一〇年二月二一日、同月二三日から同月二八日までの間の毎日、同月二日ないし四日と札幌西整形に通院した。MRIの検査の結果、ヘルニアの症状が認められたが、それ以外にこれといった所見はなかった。理学療法を受けたが、症状は改善されなかった。原告は、転医を希望した。札幌西整形の治療費の合計(本人負担分)は、一一万二四四二円であった。

(三)  原告は、平成一〇年三月三日、手稲前田整形に通院した。腰、左肩、左頚部痛、左足趾のしびれを訴えた。腰部挫傷、頚椎捻挫、左肩打撲と診断された。原告から、入院を希望した(入院の際、平成八年に腰痛で麻生整形外科病院にかかった旨説明している)。

(四)  原告は、平成一〇年三月五日から同年七月一日まで、手稲前田整形に入院した。薬物投与、腰部牽引、コルセット装着、理学療法の治療を受けた。原告は、自らの希望・判断により、平成一〇年七月一日、手稲前田整形を退院した。

(五)  原告は、その後、平成一〇年七月二日から同年八月一五日までと同月一七日から同月二九日までの間の毎日、同月三一日、同年九月一四日、三〇日、同年一〇月一三日、一五日、二二日から二四日まで、二六日から二八日まで、三〇日、同年一一月二日、四日から六日まで、手稲前田整形に通院(通院実日数七四日間)した。主に理学療法を受けた。

(六)  原告は、平成一〇年一一月七日、手稲前田整形において、頚部痛、前屈六〇度・後屈四〇度制限、左手拇指側知覚障害、第四、五腰椎部圧痛、左第一趾背側知覚低下との障害があり、平成一〇年一一月七日ころ症状が固定した旨の障害診断を受けた。

以上の事実が認められる。

二  前項認定の事実関係を前提に原告の本訴請求の当否を検討する。

1  被告らの責任原因

(一) 被告松井ビルは、本件建物の所有者として、本件建物を商業施設として賃貸しているが、多数の顧客の出入りが予想されるのであるから、利用する顧客に対し、安全性の確保された施設を用意し、あるいは施設の安全性を確保するように管理して本件建物を商業施設として提供する注意義務がある、と解される。また、被告松井ビルサービスは、本件建物の管理の委託を受けているが、多数の顧客が利用する商業施設であるから、顧客に対し、本件建物の安全性を確保するように管理して本件建物を商業施設として提供する義務がある、と解される。

(二) これを、本件建物に付属する本件階段についてみれば、野外の階段であって、雪が積もったり、氷が付着したりするから、被告らは、歩行者が足を滑らせないように安全性を確保して管理すべき注意義務があったにもかかわらず、設置したロードヒーティングの温度管理を十分行わないまま、氷を付着させて原告に利用させた過失により、本件事故を発生させた、と認められるから、被告らは、本件事故により原告に生じた損害について賠償責任を負う、と解するのが相当である。

(三) 被告らは、北海道で冬期間に多量の積雪がありこれが凍結して氷のできることは、ごく当たり前の自然現象であり、歩行者が転倒しないように注意するのは自己責任の問題である旨主張する。確かに、雪国で生活する人間にとって、雪や氷で覆われた道路や階段で転倒しないように注意して歩行することは当然のことであり、転倒しないように注意すべき自己責任があることは、被告ら指摘のとおりと考える。しかし、多数の顧客の出入りが予想される商業施設を提供・管理している場合に、歩行者に自己責任があるからといって、通常予想される態様で施設を利用する歩行者に対し、その安全性を確保した施設を提供するとともに安全性を確保できるように施設を管理すべき注意義務があることを否定することはできない(この場合、歩行者の自己責任は、過失相殺の問題として考慮すべきである)。本件階段には、ロードヒーティングが設置されているが、ロードヒーティングの管理等に落ち度があっても、歩行者に自己責任があるから、本件階段を提供・管理する者に一切の賠償責任が生じない、とすることは当を得ないものである。したがって、被告らの右主張を持って、被告らに責任がない、とすることはできない。

また、被告らは、専門業者であるジーテックスにロードヒーティングの管理を委託したから、被告らに過失はない旨主張する。しかし、ジーテックスにロードヒーティングの管理を委託したことは、被告らの内部関係であり、被告らが施設利用者に対する関係で負担する施設の安全性を確保するように管理して施設を提供する注意義務自体を否定することはできない。被告らの右主張は採用できない。

2  原告の損害

(一)  前記認定した本件事故の態様、原告は、本件事故当日は通院していないこと、翌日の札幌西整形での診断は、腰部打撲症、左手打撲症、左肘打撲症、左手関節打撲症、腰椎捻挫との病名であるが、約二週間の通院・安静加療を要するとのものであったこと、札幌西整形には一一日間通院しているが、症状は改善されていないこと、その後の手稲前田整形への転医及び入院は、原告の希望によるものであったこと、手稲前田整形の約四か月間の入院及び七四日間の通院によっても、症状の改善・変化はうかがえないこと、平成一〇年一一月七日に手稲前田整形において、頚部痛、前屈六〇度・後屈四〇度制限、左手拇指側知覚障害、第四、五腰椎部圧痛、左第一趾背側知覚低下との後遺障害の診断を受けているが、その症状は、原告の愁訴に基づくと理解できるものであり、客観的な他覚所見によるものではないこと、原告は、本件事故前に腰痛で通院して経験があり、ヘルニアの所見があったこと等を総合すれば、原告主張の症状に心因的要素や体質的要素が影響している可能性は否定できず、原告の本件事故後の入・通院のすべてに本件事故との間の相当因果関係がある、と認めることはできない。

前記認定の事実関係の下においては、本件事故と相当因果関係が肯定できる治療は、原告の札幌西整形への通院と平成一〇年四月末日までの手稲前田整形への入院である、と認めるのが相当である(手稲前田整形の入院については、客観的には医学的な必要性があったか否か疑問の余地はあるが、原告の主観的な愁訴の加療のためには、約二か月間余りの治療の範囲で本件事故と相当因果関係がある、と認める)。

なお、被告松井ビルサービスの従業員が、病院に対して、原告の治療費を負担するので請求書を被告松井ビルサービス宛てに送付するように申し入れた事実があった、としても、相当因果関係の認められない治療費まで被告らが負担する趣旨であった、とは到底認められない。

(二)  治療費

一〇五万五五三二円

(1) 札幌西整形の治療費

一一万四五四二円

(2) 手稲前田整形の治療費

九四万〇九九〇円(甲第五号証の二)

(三)  入院雑費

七万四一〇〇円

一日の当たりの入院雑費は、一三〇〇円が相当と認めるから、因果関係のある手稲前田整形の入院期間五七日間の入院雑費は、七万四一〇〇円と認める。

(四)  通院交通費六九六〇円

往復の通院交通費は、五八〇円と認められる(弁論の全趣旨)から、因果関係のある通院日数一二日間の通院交通費は、六九六〇円と計算される。

(五)  慰謝料 一〇〇万円

因果関係が認められる入・通院期間、後記説示のとおり休業損害が認められないこと等の諸般の事情を考慮すれば、本件事故によって原告が被った精神的苦痛を慰謝する金額は、一〇〇万円が相当と認める。

(六)  後遺障害慰謝料

原告主張の後遺障害と本件事故との間の因果関係は、肯定できないから、後遺障害慰謝料は認められない。

(七)  休業損害

原告は、本件事故当時、収入がなかったから、本件事故と因果関係を肯定する二か月間余りの治療中の休業損害を認めることはできない(前記認定の慰謝料の算定において考慮する)。

(八)  逸失利益

原告主張の後遺障害と本件事故と因果関係は肯定できないから、後遺障害による労働能力喪失を前提にする逸失利益を認めることはできない。

(九)  認定した損害合計

二一三万六五九二円

(一〇)  過失相殺

雪国で生活する人間にとって、氷で覆われた階段で転倒しないように注意して歩行することは、前記説示のとおり、当然に要求される注意義務であること、本件階段で原告以外に氷で転倒した事故が発生した様子はないこと、原告は本件階段を登っているから本件階段の氷の付着状況については認識していたことを考慮すれば、原告にも本件事故の発生についてかなり大きな過失があった、と推認できるから、原告の過失を斟酌して、損害賠償の額は、前記認定の損害額のうち、一〇五万円が相当と認める。

(一一)  認容額 一〇五万円

3  したがって、被告らは、原告に対し、連帯して、損害賠償金一〇五万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成一一年三月一八日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払義務がある。

三  結論

よって、主文のとおり判決する(口頭弁論終結の日・平成一一年九月一七日)。

(裁判官・小林正明)

別紙(一)〜(三) 〈省略〉

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